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第一章【火影と陽炎】 1

◆Useful Days ~陽炎のファロ~  第一章 PART1――ミナヅキ


                     

  あたしの名前は、『ファロ』と言う。と言っても外国人じゃないし、本当の名前はこれじゃない。
  ただ、あだ名みたいなものでずっと長い間こう呼ばれてたから、正直こっちの方が呼ばれれば振り向きやすい。
  コードネーム……うん、この言い方が一番かっこいいかな。
  あたしが始めてポケモンを持ち、トレーナーとなったのは十二の時。それからもう五年経つと言うのに、実はつい一ヶ月前に初めて旅立ちというのを体験した。
  ここだけは勘違いしないで欲しいんだけど、別に家族と離れるのが嫌とかそんな理由で旅に出れないからこうなったワケじゃない。家族いないし。
  ぶっちゃけて言うと、旅そのものはしていたんだけど以前はずっと一人じゃなかったから。アレは個人的に『旅』という物の定義に入れたくない。
  あたしが頭に思い浮かべる旅というのは、まず一人である事。
  まぁ、途中誰かと出会って少しくらい連帯行動するならそれも醍醐味かもしれないけど、とりあえず旅立ちは一人であるべき。
  二つ目に、行き先を指定しない事。ただ、頭にふと思い浮かんだ場所を求めて進み、行きたい場所が思い浮かばない時は自由にとにかく進む。
  分かれ道で棒倒してどっちへ行くか決める、なんてこんなのは凄く憧れる。単純かもしれないけど、今まで経験してない分こんな事さえあたしには新鮮だ。
  そして最後の三つ目は―――――

「……はい、そうなんですよ。赤ん坊とかじゃなくてとりあえず良かったけど、でもまさかポケモンの卵が入ってるなんて……」

 何でもいい。些細な事でもいいから、謎の一つや二つ、いやもっとたくさんの不可解な出来事に遭遇する事―――。

「どうしたらいいと思います? 隊長以外の他の人全然繋がらなくて……」

 でも、自分がそんなポリシーを掲げていた事なんてこの時ばかりは頭に無くて。



 ファロは再び展望広場の憩い場に腰掛け、頻繁に眉を顰めながら誰かと会話していた。手に持っているのは、メタルレッドの割と使い古したポケナビ。

「今どこいるんですか? いいからちょっと来てくださいよ」
『ヤダね』

 ポケナビの向こうから、すっかり呆れ返った若い男の声がした。

「なんで!」
『お前な、あれだけド派手にアジトから出て行きやがったクセに……。しかもそん時言ってたお前の旅の三ヶ条、なんだっけ?』
「………」

 ファロは面喰らって、何も言い返すことができない。彼女が述べた旅の三ヶ条の内の一つに、不可解な出来事に遭遇するのもまた醍醐味と言うのがある。
 それに、ポケナビの向こうの男が言うとおりである。
 彼女は一月前に、以前自分の身柄を託し行動を共にしていたある一団から、大見得切って『無理やり』旅立ったのだ。
 別にその一段を抜けると言った訳ではないのでそこまで大変な事をした訳でもない。
 しかしその手前で、再びこの男に頼るのは確かに相当情けない。この男―――ポケナビの向こうの声の主は、その一団において言うなれば上司なのである。

『それに、別にウチから抜ける宣言したわけじゃねんだから戻ってみりゃいいだろが。特に今目立った任務もねェし、卵に詳しい科学者連中だって絶対いるよ』

 男からの返答が終わらない内に、ファロはそれを溜息で掻き消した。

「却下……」
『なんで』
「いーから……わかりました。もうあなたにこの事で相談なんて一切しません!」

 言い切った瞬間に、ファロは通話終了ボタンを軋むくらいに押した。その静かな勢いに、彼女のすぐ隣で揺りかごを覗き込んでいたロコンがぴくりと震える。
 ファロは苦笑いしながらごめんね、とロコンの頭を撫でると、ついでにかごの中を覗き込んだ。青い産衣の様な材質の布に包まれて、まるで赤子が寝ているかの様に横になる卵。
 これこそが、先程から彼女を狼狽させている所以である。

「……どうしよっか、コレ。まぁ、謎っちゃ謎なのかもしれないけど、なんか思ってたのと違うんだよなぁ………」

 産衣を摘み上げてみると、卵の薄青いぶちが下の方まで見えた。その時、ファロはふと卵の下の方に小さな紙切れの様な物がはみ出ている事に気がつく。

「ん? 何コレ……」

 摘み上げてみると、どうやら卵の下に敷かれているだけの様で簡単に取り出す事ができた。
 紙は、どうやらポケモンに持たせるために用いられるメールの便箋の様で、見た事の無いポケモンが描かれている。
 そこには不思議な文体で書かれた文章があった。しかし、どうやらかなり昔の文字で書かれているようで意味までは汲み取れない。ただ一番最後に……

「ジョウト………ユグノ遺跡……?」

 その地名だけはなんとか読みとることができた。ジョウトと言えば、大きな山脈の麓に沿って広がる、ホウエン地方よりも東の地。特に有名なのが歴史深き古都の街、エンジュシティ。行ったことはないが、ここは初秋にあざとく見かける旅行推奨ポスターやテレビの旅番組では最早定番である。

「なんかわかんないけど、これってつまりこの揺りかごはジョウトから流れてきたってコト? そんなバカな……」

 ファロは思わず脱力するが、もう一度改めてそのメールを見た。

「ユグノ遺跡ってのも地名だよね。だとすればジョウト地方のユグノ遺跡って書いてペリッパー便で送れば後はどうにかなりそうなもんだけど……」

 だがしかし、あれでポケモンの卵を送るなんて前例を今までに一度でも聞いた事があったか。卵は範疇外の可能性もあるが、確か利用事項にポケモン等の生きている物は配送できない、とあった気がする。
 転送システムで送ろうにも、それにはポケモンセンターのパソコンにIDを入力しログインする必要がある。ファロにはそれができない。いや、できない理由がある。

「あ~……ダメか。でもいつ任務が入るとも分からない限りあたしがジョウトに直接行くなんてできないし、第一旅費が無い! どうすればいいかなコリン~」

 ファロはそのままロコンの『コリン』を抱き締めて嘆いた。

「……っ!」

 するとその時、すぅと僅かに風を切る様な音が聞こえた。これは今までにも何度か聞いた事がある、いやむしろ聞いていて当たり前の音。
 今現在彼女の元にはロコンが共にいるが、実はチルタリスのヒメもボールから放たれていた。
 それは偵察のため。普通のポケモントレーナーならば常日頃から偵察なんて事に気を配る事は無いが、彼女は彼女の所属している一団のためにする義務がある。
 一瞬でファロは我に返り、音のする方角へ振り向いた。羽音を立てず、近距離で僅かに伝わる程度に風切り音を出す。
 自分が直にチルタリスに教えたこのサイン。これが意味する所はただ一つ。

「まったくこんな時に……どうしてこんな所に……」

 ファロはすぐ隣に舞い降りたヒメが首を伸ばす方角―――海岸の方を、広場の柱になるべく隠れる様にしながら警邏した。すると……

(来た………)

 人一人の気配すらも無かった海岸に、何やら数名の者によるざわつきが聞こえ出した。
 そしてもう一刻その場を注視していると、今度はその声の正体達が視界に入ってきた。
 青いバンダナに、黒と白の横縞模様。遠くから見ても間違いない。あれだけ明確で奇抜な色彩は、きっと他には無い。

(アクア団……!)

 海岸で何やら相談している団員は三人。
 どの団員も特に周囲を警戒したり気遣ったりしている様子はない。ファロは、揺りかごの隣に下ろしていた自分のリュックを空けると中から赤い装束を取り出した。

「何をしてるかは分からないけど、とにかく邪魔はしとかなきゃね」

 ファロには元からある知識経験ですぐに察せた。あの三人の中にアクア団の幹部クラスは一人もいない。皆服装が単なる下っ端の物である、と。
 驚くほどに手馴れた素早い着替えをこなし、最後に赤い大き目のケープの様な外套についた大きなフードを深く被る。
 赤い外套の胸に位置する黒い火山を模したシンボル、そしてフードの両脇から生えた黒い角の装飾がきらりと妖しく光った。

「マグマ団特殊工作部隊flame1所属、陽炎のファロ。隊長いないけど勝手に攪乱しに行きま~す………」

 蚊が遠くで鳴いているのにも満たない、息が漏れるくらいの声で宣言すると、ロコンと共にチルタリスの背に乗ろうとした。
その時、不意にさっき自分が殴り位置が少し曲がってしまった遊泳禁止の看板が目に入る。

「はは~ん、なるほどねぇ……」

 ファロは悪戯っぽくにやりと笑うと、腰に連結しているボールの内一番手前のボールを宙に放る。中から出てきたのは普通よりも少し小柄に見えるグラエナ。

「ローラ、あなたは今日は見張りね。そこの荷物と卵の番を頼んだわよ!」

 グラエナが尻尾を振りながら頷くのを見届けると、ファロはチルタリスに離陸の合図を出した。
 今、風に乗りたなびくのは茶色のパレオではなく黒のスリットスカート。その背にはっきりと輝くのは火山を模した漆黒のシンボル。
 彼女が幼い頃から身を寄せていた一団――――それは、アクア団と相対し、先日煙突山にてソライシと言う教授が襲撃された事件の黒幕、マグマ団であった。


 風を劈く羽音に、何一つ周囲に気を配っていなかったアクア団も流石にそちらを振り向く。
 いずれもファロよりは年上と見える彼らは、下っ端と言えどそれなりにトレーナー経験はある様でボールに手を掛けるのは早かった。
 ひらりとヒメの背中から飛び降りたファロに、放たれたグラエナとズバットがにじり寄る。

「この人数にマグマのガキが一人で突っ込んで来るなんざ、度胸とおつむの無さだけは一品ってとこか?」

 自己顕示欲の塊の様な、含みを持った言葉でもっとも目付きの悪い男が言った。
 よく見るとこの男はまだ自分のボールを投げてはいなく、どうやら威嚇してきている二匹は彼の前に立つ男女二人のポケモン。この立ち位置を見れば、彼ら三人の中にどの様な上下関係があるかが一目瞭然である。

「そちらこそ、何企んでいるのかは知らないけどさすがはアクア団。計画のセンスの無さは天下一品ね」

 まるで手前の二匹を視野から除外している様な毅然とした物言い。ファロの得意技である。その思惑通り、弾かれた様にかっとなった一人が唸り、グラエナが飛び掛ってきた。

「そのまま気絶させろ、グラエナ!」

 グラエナが一度後ろへ下がり、前足と後ろ足をゆっくりと曲げた。

("でんこうせっか"……ね)

 まるで不規則に曲がる銃弾の様に襲い掛かってくるグラエナ。ファロは逃げる素振りも見せず、そっと傍らのロコンに何か呟いた。
 そして再び向かってくる銃弾に向き直り、フードを少し下げる。そこに垣間見えた口元は、笑んでいた。

「ガキが、怖気づいた様だね」

 ズバットを従える女がそう呟いた瞬間、ファロの立っていた場所に凄まじい砂煙が起こった。ヒメは翼で自らを守りながら空へと舞い上がる。もちろん、青バンダナの誰もがその衝撃はグラエナがファロに激突したものだと確信に等しい見方をしていた。
 しかして、その砂煙が晴れた先には―――、

「なっ!?」

 己がグラエナが昏倒しているその様に、グラエナのトレーナーだけでなく青バンダナが揃って驚嘆した。倒れたグラエナのすぐ傍らには、呑気に後ろ足で耳の裏を掻くロコン。
 そしてロコンの後ろには、今まさに"でんこうせっか"をまともに喰らい吹き飛ばされたはずだったマグマの少女がいるではないか。

「当たっていない……だと!?」

 まさか、あそこまで近距離に近づいたというのに。グラエナを繰り出した男は、驚愕に目を見開いた。
 身構え一つしていなかった状態から、人間がポケモンの技を避わす事など普通ではあり得ない。それも"でんこうせっか"と言ったら、ポケモンの持つ素早さを存分に発揮して発動する先制攻撃。あの一瞬で隙などあったはずがない。

「"でんこうせっか"ってね……」

 ファロはずれたフードを再び直しながら言った。

「確かに速いけど、一度決定打を打ちに入ったら力の軌道を変えるのは難しいのよ。だからそれを正確に読む目と、そこそこの身体能力があれば受け流すくらい人間の、しかもこんなガキにだってできるわ。あとは……」

 足元に擦り寄ってきたコリンの頭を、ファロはよくやった、と言いながら撫でてやった。

「この子が隙を見て真横から攻撃。そんなもんかな、今のは」
「……ガキ。貴様は一体何者だ……?」

 手持ちを倒された男と、惨状を目の当たりにした女はそそくさと後ろへ下がり、目付きの悪い男が噛み付く様に唸った。恐らくは彼がこの三人の中のリーダー格。
 ファロは鼻で笑うと、両腕を少し浮かせてみせた。

「こんな目立つ服装をしてるのにわからない?」
「そういう事ではない。マグマの中でどのくらいの地位にいるのかと聞いている」

 相変わらず偉そうだが、その表情に焦りが見え隠れしだしたのを見て、ファロはくすりと笑った。

「幹部じゃあないけど。あまり大見得きっては名乗れないわね」

 それだけ言うと、ファロはフードの上から耳を塞いだ。
 その態度にまたしてもアクアの三人は昂ぶり、とうとうリーダー格の男がボールを持つ手を振り上げた。が……

「っ!……この声は……いかん、二人とも聞くな!」

 三人とファロが対峙する、その上空からヒメが美しい声で歌っていた。聞けばたちまち眠りへと誘う子守唄。
 男の忠告も時遅く、飛んでいたズバットを初め二人の団員はその場に崩れ落ちた。

「……くそ……っ! 昇進をかけた任……務……が」

 歌声が残された男にも眠気を呼び起こすまでにそう時間は掛からなかった。振り上げた手からモンスターボールが転がり落ち、続いて男もうつ伏せに倒れる。
 寝息を立て始めた男の隣で、中身が放たれる事もなかったモンスターボールが微かに揺れていた。

「三人もいるのにヒメをマークしていたのが一人もいないなんて、最初のこともあり警戒能力にちょっと欠けるわね」
「そうね。この三人に見張りはやはり荷が勝ちすぎようだわ」
「っ!!」

 突然背後から響く知らない声に、ファロは弾かれた様に後ろを振り向き、一歩後退した。瞬時にその傍らにコリンとヒメが寄り添う。

「あら? かなり動きのいい子だと思ったら道理で。あなたは確か第三行動部隊の子だったわね」

 青みがかった腰まである長い髪をゆるりと三つ網にした女性が上品な立ち振る舞いで佇んでいた。青バンダナをしている所を見るとやはりアクア団。
 しかし、たった今交戦した下っ端勢とは少し服装が違う。
 白黒の横縞模様の服の上からもう一枚、背中にアクア団のシンボルでもあるドクロを模したマークが大きく入った青いジャケットを着ていた。

(幹部……!!)

 知識から来る確信。間違いなく彼女は、アクア団の幹部クラスである。

「アクア団幹部が一人、ミナヅキと申します。以後お見知りおきを…………いえ」

 ミナヅキと名乗った幹部は、柔和な笑みを浮かべつつもその手は腰のボールに触れた。

「以後が無くては名乗りも意味を成しませんね」
(マズイ……!)

 一瞬、その深緑の瞳に陰りが生じたのを見て、ファロは我に返った。このままではまずい。
 このミナヅキと言う幹部の彼女は実際戦闘という状況の上で対峙した事はない。それでも、敵うはずが無いと言う勘が無意識に働いた。
 この、全身の細胞と言う細胞が一斉に警報を鳴らすかの様な感覚。以前にもファロはこんな感覚を味わった事があった。
 逃げなければ。いや、逃げられるか。相手はこちらの出方によってボールを投げるタイミングを窺っている様で、まさに一触即発。

「ヒメ……」

 強張る唇で指示を出そうとしたその時、不意にヒメが長い首を空に向かって突き出した。思わずファロもちらりと目で追ってしまった。
 その一瞬の隙が、ミナヅキにとっての待ち望んだタイミングだった。

「お出でなさい、シャディ」

 冷たい微笑と共に、ミナヅキが放ったボールから飛び出したのは、青いアクア団のシンボルの入ったスカーフを巻くニューラ。
 それがニューラであると確認できる間が空いた瞬間から、既にニューラは先手を打とうとしていた。しかし……

「マグマッグ、火炎放射」
「何……!?」

 ファロのロコンは静止したまま何もしていない。だが上空から突如龍の如く突き抜けた火炎放射によって、ミナヅキのニューラが吹き飛んだ。ミナヅキは一瞬焦燥としたが、すぐに冷静さを取り戻すと上空を見上げた。
 陽光を背にして、翼を持った影が彼女の真上を疾駆する。
 その影が眼前まで迫った瞬間、ファロはふっと何かに掴まれ自分の体が浮くのを感じた。
 突然の乱入者はスピードを落とさずに黒い影のままその場を飛び抜け、後には何も残らなかった。チルタリスも、ロコンも。それからファロも。

「……無音で飛来するとは、やられましたね。幻影使いの火影。それにしてもシャディ」

 ミナヅキは、口角を吊り上げると傍らへ目をやった。

「今回もお見事でした」
「ニュラッ!」

 いつの間にか、そこには先程吹き飛ばされたはずのニューラが戻っていた。タイプの相性に関わらずほぼ無傷の状態で。

 
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