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―プロローグ―

◆Useful Days ~陽炎のファロ~  序章






 朝の清々しい透き通った空気が、徐々に眩く白みつつあった。今の季候を考えるなら、外にいれば丁度嫌に汗が滲み出してくる時間帯だ。
 しかし、時折潮の香りを含んで吹いてくる心地よい風のおかげでそんな事は気にならなかった。
 すぐ側に広がる青々とした海原。
 まだ遠くの海上には朝ぼらけの名残があり、まるで蜃気楼の様に見える数隻の船がくぐもった汽笛を鳴らした。
 ゆらゆら揺れるその水面擦れ擦れには、真っ白い翼をいっぱいに広げて緩やかに飛ぶ何かが。
 あれはきっと、朝一番の餌を狙って集まっているキャモメの群れだろう。

「あーぁ、せっかく海が目の前にあるのになぁ……」

 海岸より少しだけ高台にある展望広場で、いかにも不満そうな顔をした少女がぼんやりと海を眺めていた。
 潮風に揺れる、高い位置で結わえた煌びやかな黒髪。長く揃った睫毛の下からは覗くのは、少し青み掛かった双眸。この地方ではそうそう珍しくはない種の容貌だった。
 季候に合った薄手の赤いタートルネックを着込み、その上にはふわりとした白の絹状カーディガン。黒いスパッツの更に上から巻きつけられている茶色いパレオの様な布が、柔い風で引っ切り無しに靡いている。
 ただこれだけでは、至って普通の少女。ただ、『少女が海をぼんやりと眺めている』。それだけで終わってしまう。
 ふと再び海からの風が吹き、展望台に取り付けられたチリーン型の風鈴を揺らした。
 その時一緒に揺れた彼女のパレオの間から垣間見えた赤と白のピンポン玉の様な物。彼女は、腰のベルト辺りに連結しているそれを静かに撫でた。

「行きたいよね。だって久しぶりに海に出てきたんだもん」

 三つのモンスターボール。これこそが、彼女が何者であるかの何よりもの身分証明である。

「まったく。なーにが『サメハダー大量発生につき遊泳禁止』よ。しっかりしなさいよね、海上事務局!」

 そう言うなり立ち上がると、彼女は近くに立てかかっていた白塗りの看板を軽く叩いた。
 乾いた音を立ててぐらつく看板には、『サメハダー大量発生につき遊泳禁止』という赤文字と、あまり上手とは言えないサメハダーの絵が描いてある。

「ただでさえサメハダーなんて大っ嫌いなのに、こんな風に旅先で立ち塞がってくれると余計に腹立つわね。どうせならあたし達が追っ払って……」

 突如、彼女の言葉を阻む様に腰のモンスターボールがカタカタと揺れる。

「冗談冗談! 厄介事に手を出したらまたいつ足がつくかわかんないし、もう絶対にやんないって……」

 彼女が大袈裟に身振り手振りをして見せると、揺れはすぐに収まった。
 冗談と否定しておきながらも彼女の海への興味は潰えることなく、再びその目は海原へと流れた。
 紺青、群青、サファイア、瑠璃色――――様々に姿形を変える海は、見ていても飽きない。そう思った所で、彼女の顔が苦笑で歪んだ。

「いやーホント……。ホントこの『あたし』がこんな事思うのも正直どうかと思うけどさ。ま、でも今なら関係無いっちゃ無いか」

 少女は自問自答で自己完結してしまった独り言に、これまたなんだこりゃ、と自ら突っ込みを入れる――――――と、丁度海の上をなぞっていた視線が唐突にある一箇所で止まった。
 双眸が大きく見開かれ、少女は思わず展望広場の海側の手摺に乗り出す。その視線の先にあるもの、それは―――。

「………揺りかご……?」

 必死になるべく瞳孔を細め、捉えられたビジョン。剥き出しになった磯の岩盤に挟まれた、波の少ない海の上。
 それは確かに大き目なバスケットの様で、中にはどうやら薄青い布に包まれた何かがある。
 海岸線からおよそ100メートルくらい、軽く浮き沈みしながら行ったり来たりしているそれを目で追っていて、少女は唐突に重要な事を思い出した。

「そうだ、サメハダー……!」

 まだ正確には見えないけれど、万が一中に入っているのが赤ん坊だったりしたら大変だ。
 ほぼ反射的に彼女の右手は腰に伸びていた。掴み取ったのは真ん中のボール。慣れた手つきでボールを拡張させ、空へ放る。
 その動きはまさしく流れる様で、少なくともトレーナーとしての経験は十分であると感じさせる見事な一挙動だった。

「ヒメ!」

 思わず聞き惚れてしまいそうな美しい囀りと共に、現れたチルタリスが彼女の頭上で羽ばたいた。
 そして一度地面に降り立ちトレーナーがしっかりと背に乗ったのを確認すると、ヒメと呼ばれたチルタリスは白雲の様な翼を目いっぱいに広げて再び舞い上がる。

「あれを取りに行くから水面すれすれまで高度を下げて飛べる? あと、急にサメハダーが飛び出してくる可能性も無くは無いから、その時は遠慮なく竜の息吹いっちゃって。OK?」

 ヒメは一声鳴くと、高台から海に向かって勢い良く降下した。
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