スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
ページトップへ

第三章【ミカギ島】 3

◆Useful Days ~陽炎のファロ~  第三章 PART3――即興任務

 島の外観は、来た時に見た物と同じ。やはりどこも不審に思う点は無かった。ゆっくりと時を掛けて浸食された滑らかな岩肌に、十日そこいらでは到底作り上げられない苔の装飾が際立つ岩礁。初めてここを訪れた自分にとっては、尚の事ここで何が起きたのか予測も付かない。
 だが、一つだけ分かる事がある。この場合、"不審に思う点が無い"という事実がそもそもおかしいのだ。

「やっぱり噂だけかしら」

 大きな岩陰に座り込み、ファロは一息吐いた。それに相槌を打つようにコリンが一声。茶色い靴下を履いた足が、湿った砂浜に小さな跡を刻んだ。
 跡。痕。痕跡。そう、ここにはあるべきその痕跡が無い。
 例外もいるが、加減を知らない野生ポケモンは戦闘となれば、周囲の物など一切気にせずに技を放ってくるはずである。
 身近な話ではアジト付近に生息するドンメル、またその進化形のバクーダ達。彼らの使う"マグニチュード"や"とっしん"ですら時に建物一つ容易く破壊してしまう。マグマ団に所属し、更にアジトで生活している者なら皆身を以て知っている話だ。
 それがドンメルでは無く、更に大きな体躯で、攻撃力も高い種族ならどうだろう。
 竜の様な、と言う話しどおりなら真っ先に思い浮かぶのはドラゴンタイプだが、この部類は例外無く頑強且つ屈強な種族揃い。同じく竜の性を持つチルタリス、ヒメは一見するとそんな物々しい雰囲気は無いが、それでも攻撃の威力や頑丈さは見た目を大いに裏切って優れている。それが朝方の紳士が従えていたボーマンダともなれば、岩も家屋も五十歩百歩だろう。
 しかし結局の所、何処にも不自然な破壊跡は見られなかった。
 
「まぁ、噂に越したことはないか」

 ファロは擦り寄るコリンを抱き、そのまま立ち上がった。
 踏査しながら見つけたこの場所で納涼を喫していたが、本来の役割である見張りをするには、ここでは都合が悪い。
 そういえば、もう一匹ボールの外へ出ているはずの仲間は何処へ行ってしまったのだろうか。その姿を探しふと砂浜へ目をやると、コリンのものより大きな足跡が波打ち際へ向かって続いているのを見つけた。海へ視線を移せば、探していたその黒い顔だけがぽっかりと浮かんでいるのが見えた。

「って、ちょっとローラっ! あんまり遠く行っちゃダメよ、そろそろ戻ってきなさい!」

 気持ち良さそうに泳いでいたグラエナは大きな耳をぴくりと動かした。海中を走る様な見事な犬掻きで引き返し、砂浜に着いた途端に体を大きく震わせる。水切りが終わると、ローラは何処か楽しげな足取りでファロの元へ戻ってきた。

「あれ。どうしたのそれ」

 毛並みそのものが黒いので遠目には気付かなかったが、見ればローラの体に、黒いハーネスが付いている。否、それは黒い結束紐の様な物で、複数本が絡まっている状態だった。その紐を辿ると、全てがローラの口元に。それは一見するだけではどう見ても、海上に浮かんでいたガラクタだった。

「まったく、駄目でしょゴミ拾ってきちゃあ」

 ローラは若干怒った様に砂浜を蹴り、鼻先を突き出す。受け取れ、という事だろう。
 ファロは彼女が咥えていたそれを受け取ると、胴体に絡まる紐を取ってやりながら、渡されたそれをまじまじと観察する。黙視早一秒。ファロは瞠目した。

「これって……カメラ!?」

 一般的な物に比べ二回り以上も小さく、一見すると何かのおもちゃの様にしか見えない。だが、それは以前ファロ自身も取り付け、また回収した事のある物に似ている。
 同系統の物ならば、と耳を当ててみると、僅かだがピント調節の音も聞こえた。形は違うが間違いない。それは、何者かによって仕掛けられた小型の監視カメラだった。
 やっと取り終えた黒い紐は僅かに伸縮性があり、よくよく見るとその端は千切られていた。どうやら仕掛けられていたものを、ローラが見つけて噛み千切って来てしまった様だ。
 こんな場所に不自然なまでに小さなカメラを仕掛ける連中など、思い浮かぶのは一つだけ。

「ローラ、よくやったわ。帰ったらとっておきのフーズ出してあげるからね」

 その少し湿った頭をくしゃくしゃと撫でてやると、ローラは赤い瞳を輝かせながらボールへ戻って行った。

「……ッ!」

 何も居なくなった砂浜だけを瞳に映し、ファロは息を飲んだ。
 日を避ける為に入っていた岩陰。それを作る背後の岩は、突起など無い一つ岩だったはず。しかし、今目の前に黒く映る影には、確かに瘤の様な何かが乗っていた。
 "何か"がいる。その脳裏に、一瞬カイナでスコールの影を見たというバンナイの話が過ぎった。
 もしくは、ホタル辺りが飽きて悪戯に来たのだろうか。楽観的にそうも考えたが、そんな可能性は直ぐに掻き消された。
 
「ようやく気づいたね。確か……『陽炎のお姉さん』。で、よかった?」

 それは、耳を擽る様な馴染みの少女のでは無い。むしろ対称的に凛として静かな響き。少し掠れたその声の出し方は少年のものだった。
 そして声は確かに、『陽炎』と呼んだ。ファロは振り返らないまま、瞳を切れ長く眇める。
 何故、嗅覚も感知能力も優れたローラがその気配に気づけなかった……?

「初っ端から言ってくれるじゃない。『アクアの誰かさん』。でいいかしら?」

 影は面を上げ、ゆっくりと立ち上がる。完全な人影と成ったその近くにまだポケモンの影は確認できなかった。

「まぁ、なんでもいいよ。僕も『お姉さん』って呼ぶから」

 朗々とした少年の語り口は、今まで相対してきたアクア団の例には無く、出方に困るものだった。要求を早急に言って来ないのは、こちらのペースを乱す為の策略だろうか。
 
「そう。じゃああたしは『あんた』って呼ぶことにするわ」
「お好きに」
「で、そのあんたは一体何の用? 邪魔しに来たってなら容赦しないわよ」
「それは陽炎のお姉さんの返答次第」

 少年の影は宙に何かを放り上げ、それを手に取った。空中で膨張したそれは、紛れも無くモンスターボール。
 腕の中のコリンも何か気配を察したらしく、全身の栗毛を逆立たせた。

「お姉さんの持ってるそれ、僕にくれないかな?」
「……」

 ファロは手の中の小型カメラを握り締めた。やはり、これは彼らの仕掛けた物だったらしい。だが、そうであれば尚更易々と渡してなるものか。そのまま黙殺で通していると、影の少年はくすりと笑った。

「僕はあんまり面倒臭い事は好きじゃない。もちろんタダとは言わないさ」
「そう……でも、高くつくわよ?」

 やはり何処か不気味な違和感を拭い去れない会話の応酬。いつもならば、力ずくでも奪還しようと即戦闘に持ち込んで来るのが普通だと言うのに。
 そもそもこの少年、姿はまだ見ていないが何者だろうか。人の事は言えないが、ふてぶてしさを感じる迄に堂々としたその振る舞いは記憶にある下っ端連中とは一線を画している。しかし、アクア団の幹部の中に自分より年下の面子がいるという話は聞いた事が無い。

「そうだな……もしそれを渡してくれるなら、お姉さんが拾ったあの卵について一つ教えてあげるよ」
「なっ!」

 思わず声を上げてしまってから、しまったと思った。

「知らないとでも思った? カイナの一件ならスコール隊長から聞いたよ。まぁ今日は別件で来てるから関係無いけどね」

 失態だ。自分の顔は既に幹部格二人に知られているし、驚く様な話では無いと言うのに。
 これ以上相手に流れを与える訳にはいかない。呼吸を一つ吐いてから、ファロは言葉を返した。

「……なるほどね。じゃああんたも、《宵の冥海》とかっていう?」
「ご明察。幹部でも無いのにその名を知ってるなんて、流石は幻影のホカゲの懐刀」

 その声色は誉めているのか嘲っているのか。どちらにしても、虫唾が走る。

「それはどうも。あたしってそんな風に言われてるのね」
「それで」

 影は言葉尻に被せ、切り込んで来た。こちらを急かす腹か、モンスターボールを繰り返し宙へ放るその動作が余計に苛立ちを煽る。

「まだ肝心な答えを聞いてないんだけど、どうする? そちらにとってもそこそこ有益な情報と、こちらにとって必要な物の交換。そう悪い話でも無いと思うけど」

 ファロはコリンの耳元に一言呟くと、ローラのボールを戻し、入れ代わりに一つ手に取った。

「その情報が事実だって根拠はどこにあるのよ」

 取ったボールをそのまま手から落とす。それが砂浜へ沈む前に、ファロは動いた。
 素早く後ろへ向き直ると同時にありったけの力を込め、コリンを宙へ送り出す。六つの尾を棚引かせ、身を翻したコリンの瞳が紫苑色に輝き、直後。

「くッ!」

 "あやしいひかり"が放たれた。瞬間的な出来事に少年はモンスターボールを取り落とし、目を庇う。
 太陽を背にする少年の姿は直視できなかったが、それは相手にとっても同じだ。幻覚作用を持つ極光に似た光は確かに少年の動きを封じ、そして優位をも取り返した。

「交渉、決裂よ」

 コリンはくるりと宙返りをして着地。同時に落下したボールからは、まるで青空が落ちて来た様な舞鳥――ヒメが現れた。



 任務の中でも調査活動に分類されるものは、通常の撹乱、間諜等に比べ危険も少なく、何も無くスムーズに事が進めば短期間で終了となる事が多い。
 特に今回の様な、敵組織アクア団の形跡を追うものはほとんどがその例に当て嵌まる。遺留品や今後の対策への手掛かりとなるものがあれば持ち帰る様に、とは言われるが、こうした活動においてアクア団の抜け目無さは折り紙付き。一度彼らが撤退してしまえば、大抵後には何も残りはしない。
 多くは空振りに終わるこの手の任務は、言わば『何も無かった』という事実を持ち帰る為の組織的な確認行動。こうした任務は、しばしば『おつかい』とも揶揄されていた。
 今回もまたそんな例に洩れず、赤外線、金属探知、ノイズ。持ってきた機材を使ってできる調査も、手足の届く範囲は終わったが、結果は案の定。金属探知機が稀に含有金属に反応したくらいで、他の探知機材は音すらも発さなかった。

「じゃあさっきの電話ってホントにそれだけだったわけぇ?」
「ああ。結局、本当にただのおつかい任務だったらしいんさ」

 座るのに丁度いい段差を見つけ、二人は腰を下ろした。エンがバッグからボトルを二つ出し、片方をホタルへ放って渡す。受け取って即座にホタルは蓋を開け、中身を流し込むように飲んだ。横から見ていたエンは、その様子と周囲の小滝を思わず見比べ苦笑する。

「ぷはぁ生き返るー! 仕事した後のキンキンに冷えたおいしい水は最高だね!」
「……」

 内心で幾つか彼女を簡単に憤怒させられそうな言葉が思い浮かぶ。だが、エンはそれをそのまま心へしまっておく事にした。
 ホタルはボルニカ用の器を置き、そこにボトルの水を分け入れた。"フラッシュ"以外にする事も無く奥で寝そべっていたボルニカは、彼女の呼び声に応じ嬉しそうに駆け寄ってきた。

「デカいポケモンについては?」
「隊長曰く、この付近で主気取ってるギャラドスが、余所者を追っ払おうとしただけの話だと」

 エンは飲料水を喉に流し込んだ。その横でホタルは口元を手で覆い、身を強張らせた。

「ひぇ~っギャラドスとか大暴れとか、無駄に得体の知れないヤツよりおっかないんですけど! もう、ちゃちゃっとやって切り上げた方がよくない?」
「まぁ待てって。ギャラドスってのは多分ハッタリだ」
「はい?」

 ボトルをしまうと、エンは再び画面へ向かい操作を始めた。

「ギャラドスっつったら凶悪ポケモンなんて銘打たれるくらい気性の荒いポケモン。野生でも"りゅうのいかり"に"はかいこうせん"に、とにかくぶち壊す系の技ばっか覚えてる個体が多い。そいつがこんな場所で暴れたらどうなると思う?」

 ホタルは眉間に深く皺を寄せ俯きながら考えたが、咄嗟に弾かれた様に頭上を見上げ、声を発した。その突き立った針山の様な光景を見るなり顔色を変え、一瞬身震いをする。

「うっわステルスロックどころか一撃で死ねるわぁ……」

 その例えに、エンは思わず吹き出した。

「や、そこまでイメージしなくてもよかったんだけどな。まぁともかく」

 そう言って、操作していた画面の端を指で叩く。ホタルがそちらを見ると、丁度左右に位置した二枚の写真がゆっくりと重なって行く所だった。鍾乳石や岩壁など、すぐ眼先に見える光景を映した物らしい。それはやがてぴったりと重なり、ほぼ完全な一枚の写真となる。

「以前と全然変わっちゃいないってこった。大型のポケモンとドンパチやった割にはあまりに綺麗過ぎるんさ。ここ」

 ホタルは首を傾げた。

「え、どういうこと? 隊長がハッタリ言うのはよくある話だけど、じゃあ朝のお兄さんが言ってたことも嘘?」
「あの人も噂って体で話してただろ。まぁそれも含めて考えられるのは二通り……」

 エンは指を二本立て、中指を折り曲げる。

「一つはお前が言うとおり、噂は噂に過ぎなかったパターン」

 続いて人差し指も。

「もう一つはそのポケモンが反撃せず、"ただ逃げ回ってるだけだった"ってパターン」
「……え?」

 若干慌てた動作でボトルに蓋をし、ホタルは怪訝な声を上げた。

「知能の高いポケモンならまぁありえる事なんさ。対抗し得る力を持っていても人間を弄ぶ、或いは試すような……おい、ホタル?」
「来ちゃったねコレ」

 ホタルは愉楽の薄ら笑いを浮かべ、立ち上がった。
 当初は説明を求められたのかと思っていたが、どうもそうでは無かったらしい。気が付けばボルニカも青い雷光を瞬かせ、その四肢を低く構えている。
 エンは髪をくしゃりと掻き、溜息を吐いた。どうやら、『おつかい』だけでは無くなってしまったようだ。

「隊長は幾つハッタリこきゃぁ気が済むんだか……」
「ま、こーいうアドリブみたいなのも面白いんじゃない?」

 言葉が出切る前に、二人はその予兆を耳に聴いた。
 最早聞き慣れた滝以外の水音。生命反応を示すそれは、彼らを囲む水面のあちこちに泡(あぶく)となって視覚化し始めた。
 
スポンサーサイト
ページトップへ

コメント

非公開コメント

ページトップへ

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

まとめ【第三章【ミカギ島】 】

◆Useful Days 〜陽炎のファロ〜  第三章 PART3――即興任務

まとめ【第三章【ミカギ島】 】

◆Useful Days 〜陽炎のファロ〜  第三章 PART3――即興任務
ページトップへ
訪問者
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
プロフィール

糸葉ろあ

Author:糸葉ろあ
豆柴に埋もれて死ぬのが夢な物書き志望

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
セルフィ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。