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第二章【封じられた炎】 2

◆Useful Days ~陽炎のファロ~  第二章 PART2――卵の記憶


                     

「今よ、ローラを"テレポート"!」

 木々茂る森の中に、ファロの声が響いた。森と言っても、ここは正確には多数の障害物を伴う場所での戦闘をイメージし作られた演習場。自然に成ったそれに見られる鬱蒼とした感じが無く、比べて妙に整っている。
 そのせいか、綿の羽で若干小回りの利かないチルタリスでさえも、あまり制限されることはなく流れるように飛んでいた。 
 しかし、それを阻むように突如として現れた青い光源。瞬く間にその光源は黒くしなやかなグラエナへとなり代わり、空中でチルタリスに対峙した。
 ファロの掛け声と共にグラエナ、ローラは間髪入れずに背後の樹を蹴り、その身を撃ち出す。
 間隙無く繰り出された至近距離からの"たいあたり"は、見事直撃……かと思われたが、

「あー惜しい!」

 標的から大きく外れた。ローラは身を翻して別の木を踏み台とし、止む無くそのまま着地した。真上を旋回しているチルタリス――ヒメを見上げるその目は、少し悔しそうだ。

「ドンマイドンマイ。ローラも大分テレポートに慣れてきたじゃない。もっと練習して感覚を磨けばちゃんと体が動くようになるわよ。ナスカも飛ばす位置が正確になってきたし、これならイケるわこのフォーメーション……!」

 ファロはぐっと拳を握った。主の気分と同調したのか、肩のネイティ――ナスカもどこか上機嫌だ。
 テレポートは、対象を一瞬で別の場所へ空間移動させてしまうエスパーの技。本来ならば、行った事のある場所や目に見える範疇内の別所への移動手段として使用されるのが一般的である。
 しかしファロは、そのテレポートを使った新しい戦法を思いつき、それをここ三日間練習していた。きっかけは、あのカイナで繰り広げられたバンナイとの鬼遊び。思い出すと溜息が出る。無念の思いと、呆れと。放たれていた三匹目、ロコンのコリンも何か感じ取ったのか、物憂げに一声鳴いた。 
 
「それにしても今思えばあの人、ポケモンですら苦労することを易々とやっちゃってたのね。よくまぁ飛ばされてすぐにあれだけ動いたもんだわ。まさか反射神経の構造がポケモンだったりして……」

 ファロはまさかね、と苦笑した。
 テレポートを戦闘中に味方の移動手段として用いる場合、どうしても避けられない問題がある。
 それは、テレポートした直後に大きな隙が出来てしまうこと。
 いくら飛ぶ先が分かっていたとしても、元いた場所からまったく違う場所に転送されるのだ。おまけに向いている方向も同じとは限らない為、どうしても思考と体の動きがちぐはぐになる。転移先が定まり難い戦闘中なら殊更だ。
 "瞬間移動で敵の不意を突き、奇襲する"というこの戦法は、表面的には行動せず、俊敏な暗躍を求められる工作部隊にとっては役立つことに間違い無い。これを成し得るため、この点だけは目下改善しなければならない。

「とりあえずは……」
「チームワーク」 

 言いかけた言葉を、先に言われてしまった。気のせいかボールの解放音も聞こえた気がする。
 背後には何者かの気配。だが、それが誰かなんて振り返るまでも無い。
 
「カガ……」
「"かえんほうしゃ"!」

 今度は名前一つ言う暇すら無かった。それどころか――

「コリン! "ほのおのうず"!」

 間一髪。ファロ目掛けて一直線に飛んできた炎は、コリンの吐き出した螺旋を描くそれに巻き取られ、空へ向かった。幾ら作り物とは言え、周囲に茂る樹木は本物だ。彼女が"加減"を命じていなければ、間違いなく惨事になっていただろう。
 突然奇襲を掛けてきた人物は、そんな事は露ほども気にしない素振りで不敵に笑っていた。

「あ……危ないじゃないですかカガリ姉さん! それにいきなり後ろからなんて……」
「うっさい。考え込んでて背後を疎かにしたあんたが悪いのさ」

 煌びやかな毛並みをしたキュウコンと、勝気な笑みを湛えたカガリが立っていた。


 第三行隊はその任務の特性上、団内でも普段の生活はアジトの外、といういわゆる二足のわらじが多い。その為時間帯ごとに決まって割り当てられる演習場も、使う者が少ないのでいつも広く感じる。その中でも特に閑散とする午前中の時間帯が、あまり人に見られたくないファロにとっては狙い目だった。お蔭で、たまに真面目な団員が早朝練習に来ているのと出くわすくらいで、それ以外はほとんど貸切状態である。
 それとは対称的に、完全に実戦重視で毎日のようにバトルの訓練を行っているのが第二行隊。しかし、今はその隊長であるカガリがこんな所へ油を売りに来ている。ファロはその理由を問おうとしたが、問うより前に、カガリは自らその理由を話し始めた。その場にどっかり座りこみ、愚痴交じりに。まず一言めに、『ハーランがムサ苦しい』と。
 ハーランと言えば、普段からバトルとなるととにかく熱くなる筋骨隆々な副隊長。今日は特にその熱気が凄く、近くに居たくないので出てきてしまったのだと言う。

「あーもう……夏はホントに迷惑だよあのデクの坊、ただでさえ暑いってのにさ!」

 カガリはフードを取ると手団扇で煽いだ。今居る場所も木陰とは言え、湿った空気が流れ込めば不快なのは同じこと。ファロも特訓中は適度な風を受けるくらいに駆け回っていたが、いざ止まってしまえばそれもなく、蒸すような暑さを改めて感じていた。

「まぁ、そんなもんだから久々にあんたの練習に付き合おうと思ったってわけ。でも、ちょっと今見て気が変わったよ」
「え、そ……そんなにチームワークひどかったですか?」
「いや。たださっきやってたあの戦法は身内同士の信頼が絶対だ。完成させたけりゃ、それも今以上に向上させるのが一番ってことを言いたかったのさ。気が変わったってのはそういうことじゃないよ」

 カガリの声色が変わった。威圧するようでは無いが、どこか重々しい。そんな感情が声だけでは無くファロを見る目にも表れていた。そのまま静かに立ち上がり、彼女のその目はコリンへ。
 しまった。ファロは、内心でそう呟いた。
 
「石は?」
「石?」

 石。それが何を意味するのか、自分はちゃんと分かっている。しかし、口を突いて出たのは分からない振りをした言葉。

「二年前の誕生日にあげた"炎の石"はどうしたんだい?」

 失くしたのか。カガリはそう続けた。
 ファロは答えようとして喉で詰まったものを飲み込んだ。そして再度出かけた返事にならない声を誤魔化すように首を横に振る。

「……持ってます」

 直前までなんとか別の話題に移す方法は無いか模索していたが、頭より先に口先が諦めた。気まずさから来る焦り……もちろん、それが何処から来るものなのかも分かっている。ファロは、コリンにちらりと目配せをした。
 その一連の様を見て、カガリは大きな溜息を吐いた。

「持ってます……じゃないよ。コリンはもうそれなりのレベルだし、あんたアタシがロコンを進化させたのと同じ十七の誕生日にそれを使うって言ってたじゃないか。もうとっくにキュウコンになってるもんだと思ってたから、コリン見た時は別のロコンかと疑ったわ」
「ロ、ロコンは可愛いけどコリンがいるのでもういいです」
「コラ。肝心なとこスルーで論点切り替えるんじゃないよ」

 声が聞こえていたのか、他の二匹と一緒にキュウコンの尻尾でじゃれていたコリンが、振り返って嬉しそうに鳴いた。
 一瞬場が和んだが、カガリにその空気を保つ気は無いらしい。相好は相変わらず訝し気。そのまま煙草でも吸っているかの様に長く息を吐くと、ファロの方へ一歩近づいてきた。

「なんてね」

 顔を近づけ、にっと笑う。

「ホカゲから聞いてるよ。あんたがコリンもナスカも進化させないワケ」
「そう……ですか」

 ファロは一瞬瞠目するが、すぐに消え入るような声で言った。責め立てる眼差しから一転、カガリはいつもの気の良い姐御肌に戻っていた。
 ほっとしているのか、落胆しているのか、或いは両方か、自分でも判断が付かない。
 ただ、自分からその『理由』を語らなくて済んだことには、心からほっとしていた。
  
「あの卵から孵ったヒノアラシ……ヘイズだっけ。あの時のこと、まだ気にしてるんだろ?」
「……」
 
 口を噤んだまま、ゆっくりと頷く。そう、それが炎の石を使わない理由。正確には、"使えなくなった"理由だ。
 


 灰色にも見える白い廊下が続いていた。無機質で他を遮断する様な、アジト内にある研究所はどこを見ても索漠とした作りになっている。
 その中でも、主にポケモン生態学の専門家が集まるラボラトリーに、ホカゲは用があった。
 五つ並ぶ扉の一番奥、第五研究室。おもむろに、扉の右側に設置された端末にカードキーを差し込む。すると……

『認証コードが確認できませんでした』

 解除音の代わりに電子音声が流れる。すっかり開くと思い込み身を乗り出していたホカゲは、未だ微動だにしない扉の寸前でピタリと止まった。

「あ?」

 一度抜き出したカードキーをまじまじと眺める。名前、生年月日、所属。順番に見ていったが、別に誰かのを間違えて持ってきてしまったわけでは無いようだ。
 再び同じ様に差し込んでみる。

『認証コードが確認できませんでした』

 結果は同じだった。

「はぁぁ? オイオイ、またバネブーでも入り込んだかのかよっ」

 研究所に限らずアジト内のセキュリティは、アジトの中心に位置する総本部のメインコンピュータールームで統御されている。
 それも一月程前、最新の技術を取り入れメンテナンスされたばかり。しかし、性能が良過ぎると言うのも何かと問題だった。
 何しろこの謹厳実直なシステムは、アジトの重要施設に入り込んだ未登録の生体反応――例えそれがポケモンであっても、自動的に全棟内に設けられた端末の認証コードを書き変えてしまう。
 見張りを"あやしいひかり"で惑わせ、バネブーが研究所内に入り込んだ事件はまだ記憶に新しい。あの時はアジトがぶつ切り状態になり、多くの団員が缶詰状態になったものだ。
 これは幾ら何でもやり過ぎだ、と皆が文句を言おうにも、これは以前ステルス性盗聴器を備えたポケモンが、アジトに出入りしていた事が判明した為の対処策。あのホムラの決定だ、当面はこのままだろう、とホカゲですらすでに諦観していた。

「あれ、でも警報鳴ったか?」

 そう、天井を見上げて呟いた。事態の原因をそれだとすると、一つ疑問が残る。この事例が起きた場合、普段ならすぐに鳴らされるはずの警報がまだ聞こえてきていないのだ。まだ、缶詰にされたと考えるのは早計かもしれない。

「となると……」

 ホカゲは出し掛けたポケナビをポケットへ戻した。

『あれ、ホカゲさんもう来てたんですか!?』

 突然、声が聞こえた。ホカゲは、聞き馴染みのあるその青年の声に弾かれたように顔を上げる。
 肉声では無く、フィルターの掛かった様な声は、セキュリティ端末から発せられていた。

「おお、ウズミ!」
『どうもすみません、俺としたことが! すぐに開けますので!』

 ようやく扉が開き、声は途中から二重音声になった。そこには癖で跳ねた茶髪の青年が、罰の悪そうに立っていた。若干あどけなさの残る顔をしており、研究員なら皆同じだが、マグマ団のエンブレムを胸に付けた白衣を羽織っている。

「いや、大して待ってねぇぞ。むしろ気付いてくれて助かったぜぇ」
「いやぁ……その事もあるんですけど。実は、お手持ちのカードキーで中へ入れなかったのは俺のせいなんです、たぶん。セキュリティへの申請の仕方間違ってたんだと……」

 言うとウズミは、再び頭を深々と下げて謝罪した。恐らくさっきも、扉越しにこうしていたに違いない。ホカゲは、彼について研究室の中へ入った。再び扉が閉まり、ロックが掛かる。
 彼は、そうなった経緯を簡単に説明した。それによると、今日は第五研究室は貸切にしてあり、ロックもホカゲの認証コードのみで解除されるようになっていた……はずだったらしい。しかし、彼自身そうしたセキュリティ管理への要請をするのが初めてだった為、どうも至らなかったという。
 それを聞くと、ホカゲはやっぱりな、と苦笑した。

「あぁ、今なんとなくそうじゃねぇかとは。今回ばかりは極秘で絶対に誰にも知られるなって念を押しまくったの俺だし、文句は言えねぇよ」
「はは、そ、そう言ってもらえると助かります……」

 研究室内は様々な計測器とコンピューターの稼働音で満たされ、相変わらず独特の雰囲気が漂っている。床に走るコードは、気を付けなければ足を引っ掛けかねないくらいあちらこちらに走っており、見慣れない者には一見乱雑に見えるかもしれない。だが丸めた紙や本がそこら中に散らばってない辺り、ここはまだましな方だと言う事をホカゲはよく知っていた。
 ウズミが早速操作し始めたのは、中央の柱に埋め込まれた大きなコンピューター。そこからオクタンの足の様に伸びる多数のコードは、それぞれが様々な計測器に、そして内一つは、ポケモンセンターに置かれていそうな楕円形のカプセルに繋がっていた。カプセルの中身は、先日ファロから託されたあの卵だ。
 キーボードを打ち鳴らすのに合わせ、画面が次々と移り変わってゆくディスプレイ。その中に卵型のオブジェクトが浮かび、その周囲を採取されたデータが埋める。ウズミは、そこで一度手を止めた。

「解析した結果、この卵から生まれるポケモンは、まず確定して分かるのはエスパータイプを持っていること。それも、卵殻内部に磁気や赤外線などあらゆるものを遮断する念力のバリアーが張られている所を見ると、同タイプで類推しても高次な部類である事は間違いないでしょう。組織内のデータのみでは不足でしょうが、少なくとも俺はこんな例見たことも聞いたこともありません」

 見ると、卵の外側に関してのデータは充実しているのに対し、内側はほぼ計測不能の表示。分かるのは、胚の周囲を満たす破形のエネルギーが"ESP force"――つまりエスパー系の念によるものだということだけだ。このデータ解析機能は、確か卵の内部までグラフィック化できるはずだったが、それも念に阻まれ無理だったらしい。
 
「他に何かわかったことは?」
「卵殻の表面から、本来なら深海に生息するバクテリアが見つかりました。恐らく、海に棲むポケモンと見て間違いないでしょう」
「海……ね」

 ディスプレイを見つめるホカゲの目が、細く研ぎ澄まされた。

「エスパーに水と仮定して……ヤドンとかヒトデマンなわけねぇか。まさか新種じゃねーだろうな」
「周波数が出れば、それも分かったんですけどね。あ、そういえばもう一つ気になることがあるんですけど」
「なんだ?」

 ウズミは再びキーボードを弾く。すると、今度は四角い枠の中に水や塩化ナトリウムを始めとする様々な成分と、その含有量が表示された。

「どっちかってとアクア団の分野ですけど、海水の成分もわりと残っていたので一応駄目元でデータベース浚ってみました。そしたら、一部の成分情報が偶然にもある情報と一致しまして……」
「ある情報っていうと?」

 そう言うホカゲの口元は、何か確信を得たように笑っていた。その脳裏には、すでに一つの仮定が浮かんでいる。
 《宵の冥海》が大事そうに保管していた、エスパータイプを持つ深海のポケモン。組織内でも分かる者なら皆、"あれ"を思い出すはずだ。だが、もしそうだとすれば、もう一つ確かめなければならない事も出てくる。果たして結果は――

「ジョウトのコクツ海岸付近の海水です。この情報七年前に更新された古いものですが、アクア団対策の項に含まれてますし、連中から奪い取ったもんじゃないかと」
「……ビンゴ」

 予想は的中していた。

「ウズミ、ディスクももうできてんだよな?」
「あ、はい。ハードディスク内のはもうデリートしましたし、今見てるのはお渡しするディスクの中身ですよ」
「じゃあそれと、卵をもらおう」
「わかりました。すみません、肝心なことは分からずじまいで」

 片手でディスクを取り出しながら、ウズミは罰の悪そうに笑った。

「これだけ分かりゃあ充分だ。むしろ科学班でこんなん引き受けてくれんのは、もうお前くらいだから助かったわ」

 確かに初めウズミに頼んだのは"卵の中のポケモン"の調査だった。しかし、彼はそれに見合う、いや、それ以上の働きをしてくれた。それに、幹部個人の一存による極秘調査など、バレればホカゲ自身だけでなく彼にも懲戒が下る。そのリスクを恐れず手を貸してくれるような者は、今の科学班には稀有だった。

「そんな、身に余ります。それにホカゲさんからの調査依頼については、バトラー博士から言付けもありますしね」
「そうだったのか。俺も、出て行く時に『今度から何かあったらウズミ君に頼め』って言われてた。さっすが手抜かりねぇな」
「……博士もあれでたまにえげつないですよね」

 作業の手は止めずに、ウズミは溜息を吐いて項垂れた。

「ああ、あの人はやるときゃやる人だ。まぁ、助手だったお前をそれだけ認めて信頼してたってことだろうよ。それに俺、そんな人使い荒くねぇし心配すんな」

 そう言って笑うホカゲの顔は、怖いくらいに爽やかだった。




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