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第一章【火影と陽炎】 6

◆Useful Days ~陽炎のファロ~  第一章 PART6――救世主ナスカ


                     
「ちょっ一回のジャンプで普通あんな跳ぶ……!?」

 鬼ごっこ開始からほんの数分。早くもファロはバンナイのもう一つの才能に驚いていた。達人級の変装に声帯模写、これだけでも十分密偵としてはエリートなのだが、それに加えこの軽やかな身のこなし。
 世界に名立たる怪盗も真っ青なくらいの速度で、住宅街の屋根の上に放物線を描いていく。否、むしろ容姿と言い雰囲気と言い彼自身が怪盗の様だった。大通りで行われているイベントのお蔭か道行くギャラリーは少ないが、見た者は大層驚いていることだろう。
 ファロも負けじとそれを追尾するが、正直追いかけるので精一杯。コリンも一度ボールへ戻す他なかった。
 
(これが……うちのエリート密偵、『千の顔を持つ男』……!)

 特殊工作部隊というのは、中心となる第一行動隊の表面下で敵方を撹乱する部隊。時にはパートナーポケモンと共にトリッキーな侵入者を演じ、時には重要データの奪取及び偵察と言った控え目な密偵ともなる。いざという時に自分の役割を見極め動と静を使い分ける。マグマ団の中でも取り分け隠密色の強い役どころだ。
 それだけに、やはり部隊構成員には身軽で瞬発性に優れたしなやかな行動力が要求される。ポケモンはもちろん、トレーナーも例外無く。
 だが大勢いる部隊員の中でも、やはり彼の実力は飛び抜けていた。例え男女の差はあれど、スピードと軽業には結構自信があったのに。ファロは小さく息を吐き、少し落差のある建物間を飛び越えた。
 距離の離れた前方を走るバンナイは、さっきの言葉に違うことなくやはりこの状況を楽しんでいるらしい。時折立ち止まってこちらを振り返ったり、スピードを緩めたり。少しも追いつけない自分なんかと鬼ごっこなんて幼稚な遊びをして何が楽しいのか。
 不意に、このゲームを立案したホカゲの顔が思い浮かぶ。きっとこんな奴を理解するには彼くらい頭が良い必要があるのだろう、とファロは苦笑する。だが、すぐにその表情を引き締めた。

(早く打開策を打ち出さないと!)

 先刻浮かんでいた千切れ雲はもう探せない。空の色は全体的に紫になりつつあった。
 一体このゲームの終わりが何処なのか正直見当も付かないが、夜の帳が降りてしまったらそれはもう敗北を意味する。それだけは確かな気がした。

(今このまま追っかけたとしても、体力が減るだけか……)

 ちょうど少し息も上がってきた頃だ。ファロは一度その場に足を止めると、そのまま建物から飛び降りた。バンナイが今の瞬間を捉えていたかはわからないが、急にこちらが追いかけるのを止めれば向こうもそれなりに当惑するはず。とは言ってもこれくらいで今の状況が良くなるとは思えないが。 
 休憩がてらその場に腰を降ろし、ベルトのボールホルダーを引っ張り出した。そこで初めて自分が今いる場所を認識し、思わず息を呑む。
 広範囲に高く積み上がる、大きな正方形の塊。そして今は機能していないので分かりにくいが、クレーン車が二台。周囲を見渡すと、建物と同じくらい高い壁に囲われていた。
 どうやらここは、昼間見た臨海工業地帯の一角らしい。良く目を凝らすとクレーン車の側面には、"カイナ造船区・廃材処理工場"と書かれていた。正方形の塊は、廃棄処分となった船や機械の成れの果てだったようだ。
 まさか住宅地から工業地へ来てしまっていたとは。どうりでさっきから歩いている人をまったく見かけない訳だ。今までブラインダーを掛けられたギャロップの様に必死で、周囲の移り変わりにすら気付かなかったらしい。

「やっぱり、ポケモン達に頼るしかないよ」

 ファロは、改めて自分のボールホルダーを見つめた。今現在、自分が連れているのは合わせて四匹。
 実を言うと、対メタモンには打って付けのアイディアが一つだけある。撃鉄となるのはコリンで、それなりに勝算もあった。しかし――

(あんな超人みたいな人をポケモンの技で追いつめられるような状況なんて、どうすりゃできるのよ……)

 偶然ここに飛び込んできてくれたら、とファロは万一にも起きそうにない願いを馳せた。この場所は、入ってくる分にはただ飛び下りればいいだけで楽だった。しかし、外壁の面している所には高く登る為の足場や突起も無い。少なくとも今見える限りでの脱出口は、目の前の良い感じに段の付いた廃材ブロックの山。これくらいだろう。あのバンナイの足に枷を付けるには、打って付けの立地状況だというのに。

「コリンとローラは接近してないとどうにもならないし、ヒメ……は駄目だから、後はナスカしかいないか。この子まだイタズラ癖が治ってないのよね」

 一番奥にセットされていたボールを手に取り、じっと見つめる。そしてじっと見つめたまましばらくたった後、

「……ナスカ? そうだ。 いけるよコレ!」

 ファロは突然何か閃いたように指を打ち鳴らした。
 その勢いのままに立ち上がると、持っていたボールを放り上げる。中から出てきたのは―――  

「……ねぃ?」

 色鮮やかな小鳥ポケモン、ネイティ。出てくるなり無表情のまま、ファロの顔をじっと見つめている。ファロはそのボールの様な体を抱き上げ、腕の中に抱え込んだ。
 
「ナスカ。イタズラ、するわよ」
「ねぃ?」

 不敵に微笑んだ自分の主人の顔を伺い、ネイティ――ナスカは疑問符を浮かべた。




「ふむ……ちょっと本気出し過ぎたかな」

 稼働している真新しい造船所の屋根の上。バンナイは胡坐をかいて唸っていた。肩から頭へよじ登ろうとするメタモンを気にも留めず、ひたすら眼下の道を眺め回している。

「まさか諦めたってことはないよな。ホカゲからも連絡来てないようだし」

 少し前まで自分を追いかけていた少女の影が、気がつくと忽然と消えていた。その事に気付いたのはついさっき。身を隠して地上から奇襲を掛けるつもりなのでは、とも疑ったが、もしそうならそろそろ間近まで来ているはず。ましてやこれだけ隙だらけにしているのだから、今を逃さぬはずは無い。
 そこまで考え、バンナイの脳裏に一抹の不安が横切った。

「まさか……。いや、まさかな」

 それはさっき、彼自身が偶然見つけてしまった青いバンダナの男。間違いなくアクア団の者だった。ホカゲの存在を嗅ぎつけて来た者だと踏んでいたが、その標的がもしあの少女だとしたら――。
 バンナイは身を起こしその場に跪くと、ボールを一つ手に取った。

「行ってみるか、メタモン」
「ねぃ?」

 バンナイは、それこそ石像の様に硬直した。そこにいたのは、相棒のメタモンではなかった。右肩にさも当然のように留まっているそれは、一匹のネイティ。
 その真っ黒でどこを見ているかわからない双眸を見つめたまま、バンナイは首を傾げる。

「あれ、君は……」
「もんもっ」

 ちょうど頭の上から降ってきた相棒の声に、バンナイははっと我に返った。

「ってメタモン、そんな所に!」

 頭に手を伸ばそうとしたその瞬間――

「ねいてぃっ!」 

 肩に留まっていたネイティが一声鳴くなり、ばさりと翼を広げた。ネイティは飛ぶ事はできないはずだが、一体何をするのか。そう思った瞬間、ネイティも、そして自分の体も青い光に包まれる。
 
「……こ、これはまさか」

 嫌な予感がした。ネイティの正体。そして今自分が置かれている状況。しかし、それに感づいた時にはもう後の祭り。

 次の瞬間、造船所の屋根には誰もいなくなった。
 ひらりとバンナイの居た場所に何かが落ちる。それは、赤と黄色の小さな羽。



 クレーン車に寄り掛かっていたファロの目の前に、青い光が出現した。

「おかえり、ナスカ。それと――バンナイさん!」
「!!」

 ファロは待ってましたと言わんばかりに、一気にその懐を目掛けて踏み込む。しかしバンナイは、ファロの挙動よりも一瞬早く動いていた。身を屈めて瞬時に飛び退り、更に後ろへ大きくバック転を決める。その間約一秒。あっという間に間合いから安全域へ、距離を離されてしまった。あまりの順応、対応の早さ。これには驚かざるをえない。

「危機一髪だったな……まさかそう来るとは」

 呼吸を乱す事も無く、バンナイは楽しそうにくつくつ笑う。千載一遇のチャンスを逃した悔しさよりも、『流石』。ファロはもうその言葉しか出なかった。

「やっぱりスゴイ。流石は怪盗ですね」

「……密偵な。君と同じ。機密データは盗んでも宝石盗んだことは無いからな?」

 うっかり思っていたことが口に出てしまった。思わずファロは場を繕うように苦笑いする。それを見てファロの胸中を察したらしく、バンナイもまた苦笑いした。

「いや、もう耳ダコだし別にいいけど。むしろ、資金繰りにかこつけてマジでなってやろうかと思ってたところさ。ていう話はさておき……」

 バンナイは辺りを見回しながら、溜息を吐いた。

「やってくれるな。位置的に、これじゃあ空でも飛ばない限り一発で君から逃げるのは無理だ。あちこち穴は見えるが、鼠を入れるには良い袋を見つけたじゃないか。テレポートってのもなかなか面白い手だな」
 
「ふふ、でしょう? テレポートは別にダメって言われてないですしね。追いかけても駄目なら、こちらへ近づけさせるのみ、です」

 開いてしまった距離をどうにか埋め、接近戦に持ち込む方法。そこで役に立ったのが、ファロの四匹目のポケモン、ネイティのナスカだった。進化前なので飛べないナスカの長距離移動法、テレポート。これなら一瞬で相手との距離を詰められる。
 ファロがバンナイの元へ行くことも可能だが、ここで少し頭を使った。この壁に囲まれ砦の様になった廃材処理場を利用すれば、素早いバンナイの動きを少しでも制限できるのではないか、と。なので、ここはやはりナスカをバンナイの元へ送り、彼を直接連れてきてもらった方が得策と判断したのだ。
 しかし、そこで問題点が一つ。ナスカのテレポートは十分信頼のおける正確さを備えるが、テレポート先はナスカ自身が記憶している場所、また対象が見える位置である必要がある。
 そこで思いついたのが、ヒメにもう一働きしてもらい、バンナイの見える位置までナスカを運ぶこと。ファロの睨んだとおり、バンナイが一度動きを止めていたのが何よりも幸いだった。

「確か駄目なのは、トレーナー自身が空を飛ぶことでしたよね? ヒメにはちょっと悪かったけど、これ以外にはもう方法が思いつきませんでしたから」

 ファロはナスカに緑色のポロックをあげると、お礼の一言と共にボールへ戻した。
 それを見たバンナイは、不敵に笑うと左足を一歩下げる。

「おや、もしかしてもう終わりだと思ってないかい? まだ君自身が俺に触れてないのだから、勝敗は決して……いない!」

 言い放つと共にバンナイは地を蹴り高く跳ね上がった。その先には囲いの高さと同じくらいに積まれた正方形の廃材が。そこは、外壁から出ることのできる最も近い突破口だった。

「まだよ! コリン、"じんつうりき"!」

 しかしこれは予想の範疇。ファロの号と共に廃材の山の天辺から、コリンが姿を現した。その双眸は紫色に輝き、周囲の廃材から破片が舞い上がる。
 咄嗟に掴まろうとしていた廃材を蹴り、離れようとするバンナイ。しかし、コリンの"じんつうりき"はそれを逃さない。

「読まれてたかっ……メタモン、"へんしん"。そのままお返しだ!」

 バンナイの号で、メタモンは素早くロコンに変身した。即座に"じんつうりき"で対抗し、バンナイはとりあえず難を逃れる。
 まさかあの僅かな時間で変身するなんて、と思わずファロは感嘆の息を漏らした。普通のメタモンであれば、変身が完成する前にコリンの"じんつうりき"に捉えられていただろう。
 しかし、感心してばかりでは勝負はつかない。ファロは着地したバンナイに向かって駆け出した。

「コリン、飛び降りながら"かえんほうしゃ"よ!」

 ファロの指示でコリンは宙へ身を投げ出す。そのままバンナイの方へ向かって火炎を吐き出した。

「こっちもだメタモン! "かえんほうしゃ"!」

 メタモン扮するロコンがバンナイの前へ立ち、襲い来る火炎を相殺する。再びさっきと同じ要領で、コリンの攻撃は防がれてしまう。コリンはそのままくるりと宙返りし、地面へ着地した。
 コリンの技が一時止んだ隙を見て、バンナイは向かい来るファロの方を一瞥した。直後、"かえんほうしゃ"よりも幾分規模の小さい火球が、ファロの足元目掛けて飛ぶ。ご丁寧にフォローに走ろうとしたコリンの方へも数発行っていた。恐らくは牽制の指示でも出したのだろう。ファロはやむを得ず踏鞴を踏み、小さく舌打ちした。

(やっぱりこのメタモン、かなりやるわね)

 幾ら能力をコピーするとは言っても、所詮は紛い物。そう思っていたファロだが、現にバンナイのメタモンは本物であるコリンの攻撃を二度も相殺させる程の力を発揮している。変身の速度もそうだが、やはりこのメタモンは良く育てられている、とファロはそう確信した。
 しかしながら、メタモンが"メタモン"という種族である以上、どうしようもない点が一つある。そしてその点がある限り、コリンが不利に追いやられることは断じて―――無い。
 見れば、今度はあちら側から攻めの姿勢に入っている。背筋を伸ばし、六つの尾を扇状に広げるあの構えは、間違いなく"おにび"。この技は普通の火の粉と違い、残存時間が長い。おまけに不規則に揺らめき、当たればそれなりに痛手を負う。大方このゲームが始まる前自分がやった様に、相手の動きに枷を付ける腹だろう。
 そちらがその気になってくれると言うのなら、これは願ってもない。

「コリン」

 ファロは、この時を待っていた。
 ポケモンの技によって相手を追い詰めることができる、この時を。



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