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第一章【火影と陽炎】 4

◆Useful Days ~陽炎のファロ~  第一章 PART4――バンナイを追え


                     
 

「う~ん、やっぱおいしいわぁコレ!」

 ファロはまるで恥じらう乙女の様に片頬を手で覆い、瞳を煌めかせた。

「フエンせんべいもいいけど、銘菓『キャモメのたまご』も前から食べてみたかったのよねぇ!」

(昨日はカイナ出る時買い損ねたし、ある意味隊長に着いてきてよかったかも……)

 白い卵型の饅頭をまた一つ手に取って半分に割り、頬張った。足元で羨ましげに見ていたコリンにも市場で買った青いポロックをあげ、その頭を撫ぜる。

「コリンは渋めで、ローラは甘め……と。もちろん皆の分もポロック買ってきたから、後でおやつに食べよっか」

 コリンは嬉しそうに一声鳴いた。
 さてと、ファロはそう呟くと、ポケナビを取り出しながら市場の終点である鮮やかなアーチを見上げた。再びナビに目を落とし、画面に『着信』という文字が無くてひとまず安堵する。恐らくこれなら、メールの件も少しいじられるくらいで済むだろう、と。
 意地悪く笑みを浮かべるその顔を頭に浮かべアーチを潜り抜けたその時、抱きかかえていたロコンが首をくんと上げた。耳も忙しなく動いている。
 その理由がファロにもわかるのは、僅か二秒後のことだった。

「待ちやがれゴラァッ! てめぇまた科学班から勝手に備品持ち出しやがったな!」

 間違いない。たった今まで脳内で意地の悪い顔を浮かべていた彼だ。その声の主が視界に現れるまでに、更に五秒。
 奥の巨大な造船所の屋根から、二つの影が飛んできた。手前を飛んでいるのはゴルバット。それを追うように飛んでいるのは、オオスバメ。ホカゲはその足にしっかりと捕まっていた。
 ということは――

「閃光弾の二個や三個や十個くらい問題無しだろ。むしろ貴重な一個をスモッグで防ぐなんて荒業で無駄にしたお前の行為の方が、科学班への冒涜だと思うぞ俺は」

「話の主旨をすり替えんなっ! ていうかお前十個も持ち出したのかっ!? セキア班長が期末ロス報告でどんだけ苦労してると思ってんだ!」

 放たれる火炎放射を器用に避けながら逃げ回るその男の姿が、段々鮮明に見えてきた。

「ゴルバットの方は――バンナイさん……!」

 成程、確かにあの奇抜なパープルヘアーには見覚えがある。以前彼との任務に着いた時、初対面時は頭の方にばかり目が行って仕様がなかったのも即座に思い出した。
 それにしても、その彼がまさか本当に隊長命令を無視して逃走を図るなんて。おまけに命に別条は無いとは言え、上官に向かって閃光弾を投げたらしいとかなんとか。もうこれだけで、空の上でホカゲが言っていたことの全てに合点がいってしまったのが物悲しい。
 ファロは溜息を吐きながらポケナビを開く。通話画面に呼び出したのはホカゲの番号だ。周りを見れば、平和な市場の空で突如始まった空中戦にすっかり野次馬が群れてしまっている。
 十回程呼び出し音が繰り返され、これは出ないな、とファロが諦めかけたその時……

『あンだよ、今取り込み中……ってかバンナイを見つけた――』

「そんなの見りゃわかりますよ!」

 ファロは野次馬から離れ壁際に屈むと、小声で怒鳴った。

「人に警告したくせに何てことしてるんですか!? 警察が駆けつける前に早く地上に降りてください!」

 程なくして、電話の向こうから度肝を抜かれたような声が聞こえた。恐らくたった今野次馬の群れを視認したのだろう。まさかあの頭脳明晰な彼が本当に気づいていなかったとは、とファロもファロで内心驚いた。

『悪ぃ……! 指示は追って出すから、お前もそのまま別行動で追跡してくれ! 俺は空からヤツの動向を見張る』

「え、そんなこと言われても」

 ホカゲが電話に出た隙にこれ好機と距離を離したらしく、既にバンナイはファロの視界から完全に消えていた。
 しかし、どうやらホカゲにはまだ見えているらしい。片手に持っているあれは確か、彼の発明品の一つである小型遠近両用スコープだ。

『三時の方角。アイツのゴルバットは元々そんなに体力無いし、俺が削っといたから海にはきっと逃げない。どこかで降りて変装するはずだ。とりあえず、なるべく目立たないようにカイナ博物館付近へ飛べ』

「……暗中模索もいいところですよね?」

『上等じゃねぇか。明中模索にしてやろうぜ。おっと、インカム回線は49番だから忘れんなよ?』

 それだけ言うと、通話は向こうからプツンと切れた。幾らインカムで連絡を取り合うと言ってもそれで何になるのか。
 これは予想以上に面倒な任務になりそうだ。ファロは深く溜息を吐きながらポケナビを閉じ――自分の荷物の中から紺色のケースを取り出した。
 中に入っているのは、電波傍受を防ぐマスキングが掛けられた無線インターカム。赤と黒のツートーンカラーが如何にもマグマ団を彷彿とさせる小道具だが、 この賑わいの中でならさして問題にはならないだろう。
 ファロは手早くそれを装着すると、今度は肺の空気をいっぺんに入れ替えんばかりの深い深い呼吸をした。
 身につけているのは赤い装束ではない。追跡する対象も青い装束ではない。けれど、これは本任務時さながらのスリルだ。
 仕上げに、ホカゲの持つ母機とのみ直通する『49番』にしっかりと回線を繋ぐ。

「さてと」

 ――ボールを一つ、空へ放った。





 白昼の下。男は手摺に寄り掛かり、崖下にし吹く海を見下ろしていた。
 吹きつける潮風に銀光る髪を棚引かせ、その目はただただ寄せては返す波を――断崖に打ち砕ける波を見ていた。 
 若干彫りの深い整った面持ち。だが壮年も後半に差し掛かろうか、目尻や頬には少し皺が見れた。それでもあまり年を食っているように見えないのは、やはり常軌を逸した特徴のせいだろうか。腰くらいまである銀灰色の総髪。ずっと海を映している瞳は、燻し銀の様な光を持つ蘇芳色だった。
 男は一頻り海を見終えると、静かに瞑目した。安堵したように口元には笑みが浮かぶ。

「そうか……無事に、連中以外の者の手へ渡ったんだな」

 紺色の大袖を翻し、男は後ろを振り返る。そこには、一人の少年がいた。

「一応ね。うちの隊長の潮読み予想で、すでにミナヅキと下っ端連中が手配されてたんだけど、間一髪でマグマの女の子が持ってったよ」

 男とは対照的な烏羽色の髪に濃紺の瞳。見たところ少年から青年への過渡期といった年頃で、精悍ながら男を見つめるその目には幼さが見え隠れしていた。
 服装はモノトーンで統一された普通の物を選んでいるが、何故か右手には妙に明るい空色の布が握られている。

「マグマ団と言やぁ、"陸"の方だったか?」

 片眉を上げながら興味津津に訊いてくる男に、少年は仏頂面のまま頷いた。

「ごく普通の一般人って方が都合はよかっただろうけど、問題はないだろうさ」

「だが、一応お前さんとこと同じ裏組織だ。闇市に売り飛ばすってこともあるだろ」

 わざとらしく戦慄めく男の顔を尻目に、少年は阿呆か、と呟いた。

「アクアもマグマもそこまで悪党揃いじゃないっての。過激な考えを持つ奴もいるにはいるけどね」

「お前さんみたいにな」

 少年は意表を突かれたように男を振り返ろうとしたが、しばし逡巡してやめた。

「……まぁそうなるか。でも、僕が言ったのは組織の方針に心から心酔し切っている稀有な奴のことだよ。その点言うとあの人は、遠目に観察する限りじゃそうじゃない方だ。何せ自由気ままに旅なんざしてるし、大方僕みたいなもんだろうさ」

 男はそうかい、と呟くと、また海の方へ向いた。

「見てくれどう眺めてもただの落し物だし、中にちゃんとメールも入れてきた。それでも心配なら、あんたが直接預かりに行けばいい」

 男は黙ったまま、欄干に身を預けている。
 彼が納得した――そう読んだ少年は、踵を返した。元々この事を報告に来ただけなのだから、長居は無用だ。
 しかし、そこでまた呼び止められ最初の一歩で踏みとどまった。ちょうど足元に太い木の枝があってふらつくが、構わずに踏みつける。

「いや、一言お礼をと思ってな。まさかお前さんが協力してくれるとは思わなんだから助かった。……礼を言うよ、ウツセ」

 男は背を向けたまま言った。対してウツセは、同じように背を向けたままふっと笑った。

「別に、あの卵の中の個体がどうなろうと知ったことじゃないけどね。ただ、あんたには借りがある」

「そうかい。お前さんが良識のある者でよかったよ」

 男が笑み混じりに言ったその時、ウツセの足元でバキリと何かが砕けた。

「僕は、僕の目的を諦めたとは言ってない。それでも良識があるなんて言えるのか?」

 少年の瞳に、突如として剣呑な光が宿った。一言前とは全く違うその剣幕に、一瞬だけ男は押し黙る。だが、

「まだ未遂の内はな」

 特に臆した素振りも見せず、男は余裕たっぷりに言ってのけた。
 やれるものならやってみろ、とまるで挑発しているかの様にもとれるその態度。だがウツセは何も言い返すことはせず、唇を噛み締めながらモンスターボールを空へ投げた。




 音沙汰が完全に消え去るのを待ち、男は再び後ろを振り返る。予想通りウツセの姿はどこにも見えず、代わりに真っ二つに折れた木の枝が落ちていた。
 男はゆっくりと歩いていき、その枝を拾い上げる。

「そろそろ……頃合いかもしれないな」

 二本になった枝の断裂部分を組み合わせると、そっと地面に置いた。



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